2025/08/27
睡眠障害の薬物療法
眠りについてのコラムが3連続です。
今回は薬についても触れますが、不眠や不眠症と呼ばれる状態や診断についても少し触れます。
不眠や睡眠障害にも様々な状態像がありますので、詳しくお知りになりたい場合には、精神科・心療内科・睡眠専門のクリニック(標榜科目は明確ではありませんが保険医療機関)で聞いてみても良いかもしれません。
・ガイドラインの存在
他のいろいろな症状や病気の場合もそうですが、今は医学もある程度進歩して、いろんな疾患にガイドラインなるものが出てきています。
このガイドラインは国によって違いがあったりはしますが、原則は患者さんごとの状況や症状に合わせて柔軟に運用できるようになってはいます。
このガイドラインに従って治療や処方をスタートするのが通例となっており、基本的には標準薬と呼ばれるもの、第一選択薬・推奨薬を使用するというのが標準治療と言って、治療の中心となります。
・国民皆保険制度の存在
少し脱線しますが、日本の場合は国民皆保険制度で、保険医療に則った薬を使います。
皆保険制度というのは、国民健康保険や社会保険といった、国民である皆が適切な負担で適切な医療を受けられるという制度であります。
海外だと保険の仕組みが違ったり、保険にそもそも入っていない人がいたり、薬にローカル性があったり等、様々な問題点がありますが、日本における保険制度・診療報酬制度ではある程度、質が担保されていると思っていただければと思います。
ただし、この保険診療では、国(厚生局などの厚生労働省が主体)が認めた使い方や処方量、でないと保険診療では処方できない、ということがよくあります。
特に精神科で使われる薬の多くは、場合によっては間違った用いられ方をする可能性も否定できず、処方日数の上限や、1日あたりに使ってよい分量が決まっています。
これを元にすると、精神科・心療内科では受診の頻度が他科に比べると多いと思われてしまいますが、翻って見れば、大切な部分だからこそ適切に医師と相談の上、使用することが求められているのだと思われます。
・睡眠の問題、その治療について
不眠の治療は、睡眠に関する生活習慣の調整や改善、睡眠衛生の勉強(心理教育といいます)、薬物療法の3つの柱から成っていると思ってください。
当院に初めてお越しになられて、睡眠の問題があるということで治療を開始した方がいます。
初診の時に、「幼少期のこと」や「教育歴(どちらの高校や大学に通っていたか)」「社会歴(どのようなところで働いているのか、転職したことがあるか)」等を伺うことがあります。
かなり戸惑われる方がおられるのですが、これは精神科に睡眠のことで掛かられた場合には多くのクリニックで聞かれることと思います。
これは、上記の3つの柱の中で、「目の前の患者さんはどこから手を付けて良いのか」「どこまでだったら対応可能か」などを吟味したうえで、治療を開始するために聞いています。
睡眠の問題だけではありませんが、精神科で扱うテーマや問題は、複合的な理由から成り立っていることが多く、1対1関係では語れない、説明できないことが極めて多いです。
他の精神的な問題の併存の可能性を検討するためであったり、その可能性を除外するためであったりで意図していないことを聞かれることがあるかもしれませんが、直接関係がないじゃん、と思われた場合でもお嫌でなければお答えいただければ幸いです。
睡眠薬の使用については以前のコラムでも書きましたが、その作用機序や血中半減期(体内からどのくらいで抜けていくか)、睡眠に対する作用以外も踏まえて患者さん毎の睡眠やそれ以外の困りごとに合わせて(保険診療の範囲内で)オーダーメードでお薬を選択します。
参考までに、一般的に睡眠薬と言われているのは以下の3種類になります。
・GABA受容体作動薬
・オレキシン受容体拮抗薬
・メラトニン受容体拮抗薬
それに加えて、次のような薬を使う場合もあります。
・漢方薬
・抗うつ薬
・抗精神病薬
・抗ヒスタミン薬
などです。
これらの薬を、患者さんの状況や併存疾患(場合によっては内科的な疾患)までを考えて使い分けていくことになります。
今回はここまでといたします。
またよろしくお願いいたします。
2025/08/25
睡眠薬の説明②
前回の睡眠薬の説明①に続き、②と題して続けて説明をしていきます。
今回は睡眠薬そのものではありませんが、睡眠に関わる効果のあるものの分類と説明になります。
・抗精神病薬
抗精神病薬は、イライラが続いてしまったり、常に焦ってしまったり、また幻聴や幻覚などの精神症状に主に用いられる薬です。
ドパミン受容体拮抗薬というものになりますが、これの副作用に眠気を催すものがあります。
結果として睡眠の質があがる場合、あげてくれる場合があるので統合失調症の方や気分障害の方、神経が過敏で落ち着かない感じのある方に処方すると、副作用によって眠りを下支えしてくれることがあります。
また、別に説明を行いますが、気分障害(うつ病や双極性障害、躁うつ病等)に対して使用する薬の多くも分類的には抗精神病薬になります。
抗精神病薬が使われているからといって、統合失調症、というわけではありませんので処方を受けられた場合でも早とちりは禁物です。
・抗うつ薬
抗うつ薬と呼ばれるものにはいろいろな種類がありますが、主にセロトニン受容体作動薬が中心かと思います。
抗うつ薬にも副作用的に眠気を催すものがありまして、状況によっては気分障害圏にいない患者さんで、睡眠薬だけでは不十分という方に対して、抗うつ薬を処方すると気分も眠りも改善することが見受けられます。
余談ですが、国民皆保険のないアメリカでは、その昔に抗うつ薬で睡眠作用がある薬を睡眠薬(睡眠薬代わり)として処方し、当時使われている薬の上位を占めていたこともありました。
・抗アレルギー薬
アレルギーに効く薬の中心は抗ヒスタミン薬ですが、こちらも眠気を催すものがあり、睡眠の薬として副次的に使われている場合があります。
睡眠薬として抗アレルギー薬を処方することは、日本の保険診療では認められていません。
ですので、アレルギーに困っている患者さんで眠りの問題がある場合、アレルギーに対して処方を行い、結果としてアレルギーと眠りにアプローチができる、場合があるということです。
処方薬ではなく、市販薬としてもドラッグストアなどで手に取る事ができる薬であります。
多くは抗ヒスタミン薬そのものかベースになっていると思われます。
抗アレルギー薬を睡眠薬として服用することには多くのデメリットがあり、翌日への効果の持ち越しの多さ(翌日の日中ずっと眠い等)、翌日の認知機能低下(翌日の単純記憶力低下等)が挙げられます。
飲み続けることによって、主効果自体が感じられにくくなっていく薬でもあるので、睡眠薬代わりとしての利用はかなりの注意を要します。
しっかりと主治医に相談をしていただければと思います。
・その他
少し脱線するかもしれませんが、歴史的な経緯があり、OTC(市販の薬)で購入できる場合もありますし、使われることもあります。
最近ですと、サプライチェーンの問題からメーカーにとって、その薬を作り続けると赤字になってしまうような薬を製造中止にすることができる許可を厚生労働省が出したという話もありました。
睡眠薬に限らず、薬の種類全体が減ってきている、というのは覚えておいても良いかもしれません。
使える種類の中から、担当医と自分に合った薬を見つけられると大変良いかと思います。
副作用というのは主作用ではない、という意味であって、有害事象や忍容性、安全性の問題とは違います。
副作用=悪いもの、ではないということだと是非覚えておいてください。
副作用で眠気がでる薬は多いので、そういう薬の副作用を利用して、依存性の高い睡眠薬を減らしたりすることはよくあります。
今回はここまでといたします。
またよろしくお願いいたします。
2025/08/21
睡眠薬の説明①
今回は『診療コラム』再開の1回目になります。
精神科での使用頻度の高い『睡眠薬』の大まかな分類と説明をしたいと思います。
・GABA受容体作動薬
GABAというのは神経伝達物質の名前です。
神経の興奮を抑えるという抑制性の作用(役割)があります。
量を調整して使うことで睡眠薬として使われています。
一番よくつかわれるのはベンゾジアゼピン受容体作動薬というもので、大変有名です。
他にも、成分名で言うとゾルピデムやゾピクロン、エスゾピクロンなどがあり、これらの薬は頭文字などに「Z」が付くことからZドラックと呼ばれます。
・翌日に眠気が残りにくい
・飲み忘れたとしても離脱の症状がない
・続けて飲んでも耐性が生じにくい
などの身体依存性の少なさから、この3剤だけが飛行機の操縦士さんも使用することが許可されている睡眠薬になります。
他に作用時間やGABA受容体のどの部分に結合をするかなどによって複数の種類の薬があります。
・寝つきを良くしてくれる睡眠導入剤
・寝ている間の睡眠時間や質を延長、向上してくれる睡眠維持薬
あるいは両方の作用を持った薬を使い分けます。
GABA作動薬には昔はバルビツール系と呼ばれる薬剤があったのですが、現在も使用が許可されているものもありはするのですが、最近は使うことが少なくなっているようです。
・オレキシン受容体拮抗薬
日本人が発見をした(!)オレキシンという物質関係の薬剤の総称です。
現在、世界で最も主流の薬になりつつあります。
2025年8月時点では、3種類が世に出ていて、新しく開発・流通するたびに売上か処方数が日本一になっています。
直近で出た薬(日本の保険診療で処方可能になった薬)は、まだ日本一ではありませんが世界で見ると世界一売れている薬になります。
3種類には共通点と違いがあるため、睡眠に関わる症状や状態をヒアリングした上で使い分けます。
・メラトニン受容体作動薬
かつての北欧では「夜の牛から絞ったミルク」が売られていました。
メラトニンが含まれているので眠りをよくする、ということで普通のミルクよりも高値で売られていたようです。
メラトニンという成分の入った薬剤やサプリメント自体は海外ではドラックストアや空港で売っています。
眠気を催す、ということもありはするのですが、それが主目的での使用とは言い難く、メラトニンは体内時計の調整作用があるため睡眠覚醒のリズム障害などに使用することが多いです。
日本の保険診療で使えるものとしては、小児に対してはメラトニンそのもの、大人にはメラトニン受容体作動薬が使われます。
・その他
いわゆる睡眠薬と呼ばれずとも睡眠作用がある薬はたくさんあります。
例えばサリドマイドと呼ばれる薬は、現在ですと多発性骨髄腫やハンセン氏病の薬として使われますが、昔は睡眠薬として使われていた時期もありました。
保険適用やお身体に他の病気がある場合や、脳や心の病気が複合している場合(疾患の合併がある場合)に学会で推奨されている薬や伝統的に使われ続けている薬もあります。
ただし、基本的には保険適用の範囲内(国が認めている使われ方に限定)で使われます。
正しい分類ではないですが、これらのものは睡眠補助剤とでも呼ぶことにします。
今回はここまでといたします。
またよろしくお願いいたします。
2025/08/21
『診療コラム』再開のお知らせ
当院HPをご覧いただきありがとうございます。
諸事情により長らく中止としておりました『診療コラム』の掲載を再開いたします。
不定期更新となりますが、見ていただいた方に、これまでとは違った『新しい見方』『気づき』『なるほど』をお届けできたらと思っております。
精神科や心療内科、脳や心に関係するテーマが多いですが、日常でも活かせるようなものが含まれているかもしれません。
医学の研究による知見は日進月歩ですが、昨日まで正しかった治療学説が明日には間違っていた、となることも往々にしてあります。
それらの事柄を主に当院院長の目線で解説させていただきます。
更新の際には是非ご一読いただけますと幸いです。
より皆様に気軽に受診していただける診療体制を目指してまいります。
今後ともよろしくお願いいたします。
2025/08/07
当院は主治医制を導入しております
平素より大変お世話になっております。
当院では「主治医制」を導入しております。
主治医は、お掛かりになられた方の体調や状況の聞き取りからオーダーメイドでの処方を行うために必要な立場になっています。
主治医不定で当院に通院をされる場合、主に精神科で用いられる処方薬に限らず、内科等の他科で用いられる薬についても開始・中止・減量・増量の判断ができないことがあります。
医師の判断に基づきますのであらかじめご了承ください。
原則、初診時に担当した医師が当院での主治医になりますが、変更も承りますのでご予約の際にお声がけください。
より皆様に気軽に受診していただける診療体制を目指してまいります。今後ともよろしくお願いいたします。