月: 2022年5月

2022/05/26

コロナうつ

「コロナうつ」という言葉

「コロナうつ」というのは正式な医学における病名ではありません。そもそも「うつ」というのが病名ではなく、症状のことです。

「うつ病」は気分障害です。それに対して「うつ」や「抑うつ」などが主体でなく、「心配」や「不安」が主体であるものを「不安障害」と言います。

「うつ病」というと病気や障害、症、という疾患単位のようなものを差しますが、「うつ」では症状だけであり曖昧ですが広く使うことができます。

コロナうつイメージ

「コロナうつ」って何?

2019年末から、2022年5月時点に至るまで『covid-19』いわゆる新型コロナウイルス感染症は、世界的規模で2年以上にわたり続いています。日本でも一時期は下火になったかに見えましたが、オミクロン株の登場等により、再び感染者数が増加するなど、終息への道のりは不透明なものになっています。

この間、日本では緊急事態宣言の発出や自粛要請が繰り返されています。2021年には夏季オリンピックが東京で開催されたこともありました。また、前述のオミクロン株の感染力が強いということも分かってきました。さらに子供がコロナを媒介することもはっきりしました。加えてPCR検査も容易に受けられるようになったことからか、陽性者数が高いレベルで推移し、自粛を要請される期間は非常に長く続きました。

こうした状況の中、テレビやネットなどのメディアで、「コロナうつ」という言葉が聞かれるようになってきました。これはコロナ禍におけるメンタルの不調を指しているものと思われますが、「コロナうつ」は、学会や政府、国際機関等によって定義された、正式な精神疾患分類ではありません。

しかし、メンタルの不調に関して、医療の関係者ではない層やメディアなどが、感じたり気づいたりして名前を付けられるということは、実は意味のあることだと思います。医療における専門家が「『コロナうつ』などというものは存在しない」といってこうした事象を無視してしまうのは。独善的な権威主義の弊害ですし、貴重な情報はどこから入ってくるかわからないものです。

コロナ禍初期における医療関係者の「うつ」


コロナとうつ病

コロナ初期とその後の影響

前述のようにコロナ初期には、コロナ対応した人々のうつ病発生が見られ、医療機関によっては大量に退職者が出てしまうなどの問題も発生しました。医療機関だけでなく、企業や保健所でも、コロナに関係する部署で責任を負う立場にあって、過重な対応を強いられた方が、やはりうつ病になる場合が見られました。

コロナの発生から時間が経過し、そうした医療機関の方々のおかげで、コロナ患者発生時の対応ノウハウが蓄積されてくると、その手順もスムーズになっていきました。スタッフの方の負担が軽減し、未知のものへの恐怖も薄らいできたからか、初期に観られたような医療関連における「コロナうつ」は減少していきました。

その一方で、コロナの影響による経済的な問題、また特に地方で見られたようですが、自粛を無視した行動などに対する非難などの二次的な原因で、「うつ病」が悪化するケースが見られています。地方などでは自粛要請を無視したとみられるような行動(東京に暮らすお子さんの帰省等も含めて)に対し、“コロナ村八分”のようなことが起きる傾向が強かったという話を聞いています。

私は比較的都心部で診療を行っていますが、このようなことは、実は都市部でもあることで、コロナで自粛しなかったり、マスクしなかったりするような行動には、仕事場でも公共空間でも厳しい目が向けられることがありました。

社会問題としてのコロナと「うつ」

コロナ禍は様々な社会問題も浮き彫りにしました。たとえば子育て世代への負担です。コロナ期間中、子供を預ける場所がなくなったり、コロナ疑いなどで子供と離れることになったりと、様々な問題が子育て世代に降りかかりました。

また、社会の経済状況も関係しています。不景気や失業、金銭問題は「うつ」や「自殺」の増加や悪化につながることが少なくありません。しかし、それをご自身が意識していても、診察ではそれに言及なさらない方も、しばしばいらっしゃるようです。

こうした社会状況の中から、テレビやネットなど大衆的メディアで拡散されやすいような「コロナうつ」という言葉が生まれたのかもしれませんが、珍しい病態として注目されうる「コロナうつ」のようなものは、医学的には存在しないと思っています。しかし一方、医学的診断という狭い範疇のみで、人々の精神的な苦しみを捉えてしまうのは、医師や医学自体の見識や懐の狭さを表してしまうものです。

実際、コロナによって仕事や景気に悪影響が出てしまっている以上、10年以上前であればともかく、経済的に逼迫している人や、仕事の行き詰まっている人、中小企業などの事業経営で追い詰められた人などを取り巻く「うつ的気分」も含め、今は「コロナうつ」として積極的に、広くとらえていく方がいいのではないかと私は考えています。

コロナに関連してうつ的になる人は、間接直接問わずいるはずですし、ネットでもテレビでも、一般的なメディアで「コロナうつ」として取り上げることは、社会の連帯や紐帯のために有意義な事だとも思います。

コロナの影響によるうつや関連事例

災害としてのコロナと「うつ」

育児疲れと「うつ」

コロナと不安障害

コロナと虐待

コロナ禍の近隣トラブル


コロナうつの診断

そもそも「うつ病」の診断では病因は問いません。コロナで「うつ病」を発症したとしても、それを「コロナうつ病」と命名するのは少々安易で、その様な「病名」を堂々と主張すると、精神科医の間では怪訝な目で見られる傾向が最近はあります。

コロナが原因でなかったとしても、コロナがもともとある「うつ病」の疾患修飾因子として働いた可能性はあります。さらに、うつ病が悪化したケースもありますが、やはり直接のコロナ不安というよりは、もう何段階か間接的なステップを踏んでいるように思えます。

また、社会的要素が非常に影響する精神科では、立地や機能的立ち位置により、医療機関ごとの患者層や疾患がまるで異なります。そういう意味ではコロナの直接的な打撃により、うつ病になっている人が増えている地域や立場の人はあるのかもしれません。


コロナうつの治療

まず、どのような症状についてもそうですが、患者さんの個々の状況や病状をしっかり聴取し、理解に努めることが、「コロナうつ」の診療では大切です。

「コロナうつ症候群」は、様々な症候群をまとめたようなものとみた方がいいでしょう。コロナが何らかの形で関係し、うつ症状を持つものと考えると、いくつかに類型化することは可能ですが、患者さんによって各人各様ですから、個別にオーダーメイドの医療をしていくことが必要になります。

精神科も早期発見・早期治療が重要で、予後にも経過にも転機にも影響します。「コロナうつ症候群」という観点から、なんらかの症状が認められる場合は、速やかに診療を行い、症状を改善してしまった方が、後遺症が残りにくくなり、治療終了に至り易くなります。

コロナうつの治療イメージ