2025/09/16
なぜ精神科で診断が分かりにくいのか①
こんにちは。今回から2回で上記の題について、精神科ではなぜ診断が分かりにくいか、担当医に聞いても明確に答え(応え)が返ってきづらいかについて書いていこうと思います。
専門的な言葉は少し省いてあり、カッコ書きで例示している箇所もありますが、読みづらい文章が続くかと思います。
お付き合いいただければ大変うれしいです。
・精神科の診断あれこれ
「精神科にかかったが診断名ははっきり言われなかった」
これは当院に初めて来られた患者さんに精神科の病歴や受診歴を聞いているとよく伺う言葉です。
精神科に限らず他の科でもそういうことはよくありますが今回は精神科についてどうしてそうなるかを説明します。
・精神科の診断基準
日本では精神科の診断は世界保健機関(WHO)が出しているICD-10というものに準拠して行われます。
日本はWHO加盟国なのでWHOが出した診断基準を使って医療(治療)をするのが国も民間も原則ですし各種統計データもこれに準じて出ています。
これは1992年から世界で使われています。
日本では翻訳などを経て1995年1月から一個前の診断基準のICD-9からICD-10に切り替わりました。
これは2025年9月現在では30年以上経過しています。
医学はどんどん進歩していますが、診断基準は古い基準を使わざるを得ないという事があります。
実はICD-11というものが既に出ていてそれを使うべきなのですが一向に日本語に翻訳されないのでまだ国や厚労省、保健医療制度、日常医療でも使うようにはなっていません。
医学の世界では国際機関の国連の機関であるWHOのICDの疾患基準、分類の他にもアメリカのDSM-5という診断基準があります。
こっちの手引きの方は2014年10月に手軽に扱える手引きが出版され既に臨床で使われています。
DSM-5は現在からみると10年前の出版なので1992年~1994年に出たICD-10に比べると20年後に出ており全然新しく医学の新しい知見も盛り込まれてます。
そもそも医学的な研究には世界標準でアメリカのDSMの方がより多く使われています。
一般的な精神科医はICD-10は行政的、保健医療的に使い、医学的にはDSMを尊重して使うことになります。
国のいう事に従ってICD-10だけ使っていればいいのかもしれませんが医療の世界では可能な限り最先端の質の高い医療を施す義務がある、みたいな考え方があって裁判でもそれが判例に使われてしまったこともあります。現場レベルでICD-10とDCM-5と保険診療規約のバランスをとっていかないといけません。
つまり専門医なら学会の学術総会に参加したりして最新の知識を勉強したりしますがそのまんま現場で使ってはいけない場合もあるという事です。
余談ですが保険診療規約の運用は地域によっても変わります。
例えば抗うつ薬のフルボキサミンという薬は添付文書上150㎎まで使用可ということになっていますが関西や東京のあるエリアでは200㎎、中京圏では300㎎まで使えたりして最強の抗うつ薬と言われたりしているそうです。
保険診療の審査員も実臨床の診療と医学の解離を埋めるためにいろいろ配慮はしてくれていますが、最近は新薬は治験を経て必ず採用になっていますし(コロナワクチンのような場合は特殊な例外です)、ガイドラインもしっかり整備されてきていますので昔より裁量の余地が減っています。
そもそも治験をしていないような古い薬と最近の薬物動態までしっかり調べている薬では使用の回数や用量の記載の仕方が違います。
話が逸れてしまいましたが、精神科の診断基準は複数あって、「最新の知見と診断基準」だと『この診断』なんだけど、「今の日本における保険診療上の診断基準ではこの診断基準で判断すべき」だから『この診断』という複雑さがある、ということがあります。
「診断(名)を直接言われなかった」ということが何を示すかは状況や担当医によって当然異なりますが、精神科における診断の複雑さにはこのような前提があるということをご承知おき頂けると良いかと思われます。
・医療、医学、精神科診断手順
精神科に限りませんが医学や医療の診断というのはまず大まかな診断から細かい疾患名を確定させていくというものになります。
大筋から話すとまず患者さんの話を聞いて診察してそれがどの診療科目か判断するのが最初です。
医師はどの診療科目が専門の医師であれ、基本的なことや簡単な投薬は行えたりするので、それらの病気(疾患や診断名のもの)はコモンディジーズといって、一般的な病気ならある程度対処が可能な場合が多いです。
でもそういう場合でも念のため重篤な疾患や緊急性のある疾患が隠れている場合がありますし、精査が必要か専門医紹介が必要かなどを判断して高次医療機関や専門医療機関に紹介したりします。
精神科で大切なのはまず身体疾患でないかをきちんと鑑別(見分ける)、除外することです。
精神の問題は身体症状として現れますがそれを最初からメンタルの問題としてみると重篤な身体疾患や緊急性の身体問題を見逃してしまうかもしれません。
体の問題ではないことを確認できれば、「これはメンタルの問題」という事になって心療内科や精神科での診療になります。
精神科の診察でまず診断を付けなければいけないのですが、これは上記のようにICD-10に基づきつつDSM-5を念頭において行います。
診断の際には最初はやはり大きな目で見て患者さんの症候がどの診断基準のどの大分類に当てはまるかを判断していきます。
例えば物質(タバコやお酒等の嗜好品等)依存によるものなのか、精神病(見えないものが見えていたり、無いはずのものがあったり等)圏に属するのか、気分障害(通常の気分変動ではありえないほどに気分や情動のブレがある等)圏に属するのか、神経症(明確なストレスの対象によって起こっているあらゆること等)関連障害なのか、発達障害(生まれつきの特性や苦手さ等)があるのかを判断します。
ICD-10ではF0からF9まで10の大項目があります。
これらの重複診断も許されるか許されないかはケースバイケースです。
大項目が決まれば詳細な診断に移ります。
気分障害圏のいわゆるうつ病ならF32かF33、ストレス関連障害の適応障害ならF43みたいな感じで診断していきます。
どの大項目になるかは基準があります。
基準を満たして大項目を決めた後具体的な診断して診断名を付けます。
ただここに問題があって現在の診断基準の元であるDSMⅢが出た時に問題になったものに特定不能問題というのがあります。
連続して書きたかったのですが紙幅の関係で次回に続きます。
またよろしくお願いいたします。