2025/12/01
うつ状態・うつ病での「抗うつ薬」の使い方(後編)
前回に引き続き、うつ状態・うつ病での「抗うつ薬」の私的使い方を解説・説明したいと思います。
オーソドックスな使い方(スタンダードな使い方)が当然になりますが、薬剤の分類毎、種類毎、また用量毎に作用の範囲や程度が全く異なります。
抗うつ薬では少ないですが、昨日まで効いていたと思っていた薬が今日になって合わないように感じる、などはありうるため、処方薬については担当医に相談することをまず第一にオススメします。
・SSRI
フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)などが使われています。
主にセロトニンだけに選択的に作用します(一部ドパミンやアセチルコリン受容体への影響あり)。
これらの薬は一言でいえば執着を減らす薬です。
ネガティブなことを反復思考するのを減少、あるいは消失させるような形でうつに効きます。
これは「幸せホルモンのセロトニン」ともいわれるセロトニンの基本的な特徴でもあります(セロトニンは体中にありますが、抗うつ薬として作用する場合は脳のシナプスの関係で作用する場合であって、体中にあるホルモンとして作用する場合は抗うつ作用とはあまり関係がありません)。
主観的には「まあいっか」とか「大丈夫だ」とか「何とかなるさ(なんくるないさ)」みたいな感じで作用します。
副作用としてネガティブではないことに対しても執着を弱めること、投与後10日くらい嘔気がある場合がある、射精や勃起などの性機能障害が起こりやすいことが起こりやすい有害(?)事象になります。
・SNRI
これもSSRIと同じくらい歴史が古くミルナシプラン(トレドミン)、デュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサー)などがあります。
こちらは脳のシナプス間隙のセロトニンだけではなくノルアドレナリンの濃度も高めます。
「アドレナリン(エピネフリン)」の印象からこちらは、こちらは意欲も上げるのではないかと考えられてきましたが意欲は特に上げるわけではないらしいということが分かりノルアドレナリン仮説は流行らなくなりました。
ただノルアドレナリンは痛みに聞きますのでデュロキセチンはどちらかというと鎮痛の領域で整形外科などで使われることが増えています。
検査では原因の特定できない痛み(疼痛様症状)に加えて、気分の落ち込みがある患者さんに対して処方を行うと、どちらに対しても作用をするという場合があります。
ミルナシプランは治験の容量設定失敗のためか作用が弱く現在はあまり使われてないと思われます。
イフェクサーは最大量使えばSSRI、SNRIの中では一番セロトニンの濃度を上げられる薬かもしれません。
ただここで言っているセロトニン濃度をあげるというのは基本的には容量依存です。
また飲めば飲むほど上昇するかというとそういうわけではありません。
中京地区ではSSRIのフルボキサミンが保険適用量以上の300㎎まで使えたのでこれが最強の抗うつ薬として使われていたという話を聞いたことがあります。
・NaSSA
ミルタザピン(レメロン、リフレックス)は気分に働きかける作用が強いのですが眠気の副作用があり睡眠薬としてもアメリカで睡眠薬ランキングの4位として使われていたことがあると聞いたことがあります。
1位がトレドミン(抗うつ薬)、2位、3位がテトラミドとゾルピデム(マイスリー)だったと記憶しています。
しかしアメリカでは日本のように国民皆保険ではなかったりもろもろ日本と違う事情があったりするためお金がないと健康保険に入れませんので日本とは薬の使われ方が違うのに注意です。
・S-RIM
ボルチオキセチン(トリンテリックス)等に代表されるこの薬群hはうつ病の人の認知機能を上げるのと意欲が挙げる作用があるので一時期アメリカで一番売れている薬と聞いたことがあります(処方数ベースか売り上げベースかで意味合いが変わるので注意ですね)。
副作用が少ないのも強みですが投与後1か月ほど嘔気が続く場合があるので使い方にテクニックがいります。
・三環系抗うつ薬
クロミプラミン(アナフラニール)、アミトリプチリン(トリプタノール)、ノルトリプチリン(ノリトレン)、イミプラミン(トフラニール)、トリミプラミン(スルモンチール、ロフェプラミン(アンプリット)、ドスレピン(プロチアデン)などがありましたがここ数年で使える薬がいろんな事情でどんどん減っているので上のうち一部は供給されなくなっています。
アモキサピン(アモキサン)とノリトレンについてはニトロソアミン基に発癌性のリスクがある可能性が指摘されて最近は新規処方は禁止になったり発売中止になったりしました。
これらの薬は効果は強いのですが抗コリン作用など副作用も強いのでガイドラインでは副作用が少ない薬が効かない場合のセカンドチョイスのような扱いになったりしています。
これらの薬はネガティブな反芻思考が減るだけではなく意欲を上げたり興味や喜びを上げたりする作用がある点も強力です。
現代的な問題としてある世代以下の世代の精神科医ではこれらの薬を使いこなせない医師が大量にいることです。
十分量そのため効かない、あるいは効きが不十分な第一選択薬の薬剤をだらだら使ってなかなか抑うつ症状なり主たる治療目標がなかなか治らないケースが散見されます。
・四環系抗うつ薬
ミアンセリン(テトラミド)、マプロチリン(ルジオミール)、セチプチリン(テシプール)などでこれらは結構渋い使い方ができます。
ミアンセリンは睡眠薬としてつかったり、これらの薬はその他にも独特な作用を発揮したりする場合があるので主治医の先生に聞いてみてください。
・その他もろもろ
トラゾドン(レスリン、デジレル)は睡眠薬や睡眠補助役として使われます。
スルピリド(ドグマチール)は胃薬ですがうつにも効きます。
この薬を使えるかどうかで臨床力が変わります。
ベタナミンは意欲に効く薬が最近減ってしまったので使う場面が出てきました。
ヒロポンはベタナミンと並んで精神刺激薬といわれます。
ヒロポンはメタンフェタミンですのでいわゆる覚せい剤で戦後史に詳しい人は聞いたことがあるかもしれません。
使い方によっては効果的と思われますが現在臨床ではほぼ使いません。
アリピプラゾールは抗精神病薬ですが抗うつ作用があります。
アリピプラゾール以外にもブレクスピプラゾール(レキサルティ)などの抗精神病薬にも抗うつ作用があるものがありますが、「うつ病」という病名のみが付いている場合は保険適用されていません。
他にも抗うつ作用がある薬剤はたくさんありますが保険適用されているのは以上のような感じになっています。
学会のガイドラインは保険適用のような政治的・行政的な観点より医学的な観点が強いので他にも抗うつ作用がある物質はいろいろ記載されています