心の治療において、なぜ「主治医」を決める必要があるのか?(後編)

2026/01/22

心の治療において、なぜ「主治医」を決める必要があるのか?(後編)

先日に引き続き、主治医というものが、どれほど患者さんの治療や投薬に益があるかを書かせていただければと思います。
前篇に重複する部分があるかと思われますがご容赦いただければ幸いです。

6. 「言いにくいこと」が言える関係こそが治療になる

本音を言えることが、薬以上に大きい場面がある

治療が進むにつれ、誰でも言いづらいことが出てきます。

  • 「薬が合わない気がする」
  • 「実は飲めていない日がある」
  • 「飲酒が増えている」
  • 「希死念慮がある」
  • 「家族に言えない悩みがある」

毎回違う医師だと、遠慮して言えないかもしれません。
しかし主治医との関係が育つと、こうした本音を出しやすくなります。

実はこの「本音を伝え、それを受け止めてもらい、現実的な手を一緒に考える」というプロセス自体が、精神療法的な意味で重要な治療体験になります。


7. 危機のときに助けになるのは「普段の記録」

いざという時、ゼロから理解するより「積み上げ」がある方が圧倒的に早い

強い不安、眠れない日が続く、仕事が限界、家庭が壊れそう、そういう危機の局面では、そういった切羽詰まった状況で必要なのは「状況の理解の速さ(と対応)」です。
主治医がいると、

  • 普段のあなたを知っている
  • 過去の危機パターンと回復パターンを知っている
  • 何を優先し、何を避けるべきかの判断が早い

危機対応は、初対面でゼロから始めるほど不利(治療は有利不利という話ではありませんが、比較をして不利)になります。
主治医は、いざという時の避難経路を、平時から一緒に作っておける存在です。

(休職の診断書も、初対面の医師で作成できる場合もありますが、初診からの状況状態を知っている医師であればこそかける休職の診断書があります。主治医が定まっていない場合、希望する診断書が作成できない/お引き受けできない場合もあります医師自身が『その患者さんの主治医は自分だ』と思っていない場合、その医師は診断書を記載することに抵抗が発生するであろうことも覚えておいていただければと思います。)


8. 連携と書類は、主治医がいるほどスムーズになる

医療と生活と制度を一本の線でつなぐ

精神科は治療だけでなく、社会生活との接続が重要です。

  • 休職・復職の判断
  • 診断書、意見書、障害年金、手帳、福祉サービス
  • 他科(内科・産婦人科など)との薬の整合
  • カウンセリングや支援機関との役割分担

これらは単発受診だと途切れが出やすい
主治医がいると「医療」「生活」「制度」が一本の線でつながり、必要なタイミングで必要な手当てをしやすくなります。


9. 「主治医を決める」ことは、縛られることではない

セカンドオピニオンも転院も、「軸」があるほど上手くいく

大事なので明確に書きます。
主治医を決めることは、「他に行ってはいけない」という意味ではありません。

  • セカンドオピニオンを取る
  • 必要に応じて専門外来を併用する
  • 引っ越し、通院困難、専門性の必要などで転院する
  • 相性や方針が合わない場合に変更する

これは当然あり得ます。
ただ、そのときも主治医という「軸」があると情報が散らばらず、治療がブレにくい。
主治医は「鎖」ではなく「背骨」です。動くための支点になります。

(ただし、実情として「セカンドオピニオン」を嫌がる医師はいます。精神科に限らず自身の治療に自信を持っていようがいまいが他の医師の意見治療関係に入ってくることを嫌がる場合はあります。
セカンドオピニオンという選択は患者さんの権利でもあるため、状態の評価や治療の方針を他の医師に聞いてみる、ということは大変大事です。)


10. 主治医と良好な関係を築くための「具体的なコツ」

実際の診療の時間はどうしても限られてしまいます。話そうと思っていたことが話せなかった、ということも大変よく耳にします。
コツというほどではありませんが、医師に状態を伝える手段の一つとして是非ご利用ください。

  1. 受診前にメモを1枚
  • ここ2週間(前回受診から今回受診までの間)で一番困ったこと
  • 睡眠(寝つき/中途覚醒/早朝覚醒)
  • 食欲・体重・飲酒
  • 薬の飲めた/飲めない
    このメモがあるだけで、診察が短時間であっても深くなります。
  1. 「今日決めたいこと」を1つだけ持っていく
    例:眠れるようにしたい、朝の不安を下げたい、休職の相談をしたい。
    焦点が定まると、治療が前に進みます。
  2. 言いにくいことほど、短く言う
    「実は飲めてません」「飲酒が増えてます」
    長い言い訳より、短い事実の方が治療に役立ちます。
  3. 疑問は“確認”として聞く
    「この薬は何を狙ってますか?」
    「副作用が現れた時はどうすればいいですか?」
    「もし悪化したら、次の一手は何ですか?」
    不安が減り、セルフケアがしやすくなります。

11. まとめ

主治医は「伴走者」、回復を「線で支える

心の治療は、よく例えられるのですがマラソンに似ています。
雨の日もあれば、坂道の日もあります。そんな長い道のりを、一人で走るのは不安だと思います。

だからこそ、横でペース配分を考え、給水を促し、あなたの走りを誰よりも知っている「伴走者(主治医)」を見つけてください。

精神科医療における主治医は、単に薬を出す人ではありません。
変化の地図を一緒に持ち続ける人です。
気分は揺れます。人生も揺れます。その揺れの中で、過去と今とこれからを一本の線でつなぐ。
それが、主治医を決めることの必要性であり、大切さです。

御自愛をよろしくお願い申し上げます。