精神科の発熱(熱発)~「機能性高体温症」というブレークスルー~(前篇)

2025/12/17

精神科の発熱(熱発)~「機能性高体温症」というブレークスルー~(前篇)

ついにブレークスルーが…

精神科の臨床現場では、よく「原因不明な発熱」が見られます。

これまでこれに明確な名前がついていなかったのですが、最近これに名前がついたようなので報告します。厳密には、従来の精神科で見かける発熱とは少し違う側面もありますが、何にせよ「あったのに名前や概念付けができていなかったもの」に名前が与えられるのは良いことです。

その名を「機能性高体温症(Functional Hyperthermia)」といいます。

今回はこれの説明を行いますが、その前に、精神科臨床で遭遇する「発熱のパターン」について、現場の視点から整理しておきましょう。

市中のメンタルクリニックの外来で務めている方にはあまり関わりのない、特殊な例から触れておきます。

きっと今回も長くなってしまいますので、今回はテーマである「機能性高体温症」には触れず、外延部のみに触れようと思います。
次回も是非お付き合いください。

単科精神病院や入院患者で見るケース:悪性症候群

「悪性」というとおどろおどろしいですが、ベテランの精神科医にはそこまで「悪性(癌のような)」感はないと思われますので、ネーミングは変えた方がいいかもしれません。

精神科で使う抗精神病薬によるドパミン受容体のブロックが原因と思われる発熱をはじめ、筋強剛などの諸症状が起こる病態です。パーキンソン病薬の投与開始や増量、種類の変更で起きる場合もあります。

悪性症候群自体は診断基準が決まっており、治療法(補液、ダントロレン等)もだいたい決まっています。しかし、現場で厄介なのは「診断基準は満たさないけれど、限りなくグレーゾーン」という病態です。精神科病院で長く勤めているとよく見かけます。高熱ではなく微熱の場合も少なくなく、最後まで原因がはっきりしない複合病態の場合も多いのです。

緊張病(カタトニア)

10年以上前までは統合失調症の一種とされていましたが、現在は独立した概念、あるいは気分障害など他の疾患に伴うものとしても捉えられています。そもそも統合失調症より気分障害に伴うことが多いです。

これもはっきりしないグレーゾーン病態が多く、精神疾患は全般的にスペクトラム(連続体)で捉えた方が良い場合が多いです。無理に線引きしようとすると、厳密な診断ではNOS(特定不能)となってしまいます。この緊張病でも、自律神経症状として発熱が見られる場合があります。

感染症の合併、併存

精神科は認知症を診る診療科でもあります。

昔から「国は自分たちがかかる可能性がある病気に予算を配分する」なんてジョークが現場では語られていますが、認知症や介護分野の予算やサービスは(働き手不足はさておき)世界的に見ても充実しており、多くの国民が恩恵を受けています。

精神科では高齢の患者さんを多く診ます。
直接死因の多くは、元々の疾患に関わらず「肺炎」や「尿路感染症」です。精神科に身体科が併設されていない場合も多く、他科に依頼を出すと嫌がられることもあるため、精神科医には「おのずと自分で身体疾患を診る能力が育まれる」という悲しい現実があります。

まあ、どの科も大変ですから仕方がないでしょう。日本の医療は医師の自己犠牲(過重労働)で成り立ってきましたが、働き方改革や医療費削減の波で、ついに崩壊の予兆、あるいは部分的な崩壊が始まっているのかもしれません。

当院も予約制となっており、受付時間外に来られた患者様の受付ができません。
当院を守るため、スタッフを守るための苦渋の決断ですので、ご容赦ください。

腸閉塞(イレウス)、その他

慢性精神病や気分障害の患者さんで、昔から刺激性下剤を常用してきたケースでは、巨大結腸症や腸管の色素沈着(大腸メラノーシス)などの機能障害が起きていることがあります。

高齢になるとこれが原因でイレウスやサブイレウスを起こし、発熱することがあります。

夜勤をしていると、こうした身体要因(転倒転落、誤嚥、イレウスなど)の発熱で起こされることが多々あります。

ここまでは、病床のある病院ではよく見るけれど、クリニック単位でみると、そこまで頻度の多くはない病態に触れてきました。
身体や精神(心)は人それぞれ、その時その時ですので、短期的に診たとき・長期的に診たときにずっと同じ薬や同じ量が効果的かというと全くそんなことはありませんし、十分な量と期間飲んでいないにも関わらず処方薬の効果がないと断じられるのも、またそんなことはありません。
どういった病態なのかを理解することから、適した薬の選択ができるようになりますので、また次回に続きます。