2025/10/31
睡眠薬の最近の動向
・新しい薬の勃興、躍進
一般的な睡眠薬の今までは脳の神経伝達物質であるGABAの受容体に作用するベンゾジアゼピン系というのが長らく主役でした。
近年は日本人の研究者が発見したオレキシンという物質の受容体を遮る薬が世界的にベンゾジアゼピン系にとってかわってきていて主流となってきています。
・日本一売れている薬、世界一売れている薬
現在、日本で一番売れている薬はオレキシン受容体拮抗薬の商品名デエビゴ(一般名:レンボレキサント)という薬になります。
この薬は日本のエーザイが創薬しています。
この薬が日本一になる前は同じオレキシン受容体拮抗薬の商品名ベルソムラ(一般名:スボレキサント)が日本一でした。
これは創薬は外資系のMDIだったと思います。
去年の年末から世界一売れている商品名クービビック(一般名:ダリトレキサント)が日本でも発売開始になりましたので今後伸びていくでしょう。
これはヨーロッパの外資系の会社で創薬され、デエビゴやベルソムラが日本や米国でしか販売していない(ヨーロッパ圏では販売されていない)のに対し、クービビックはヨーロッパの製薬会社が開発したのでヨーロッパを含めた世界中で販売しているので世界一売れている感じになっています。
この分野の創薬、薬剤の新規開発は活発です。
2025年秋から冬ごろには商品名ボルズィ(一般名:ノルボレキサント)が発売されます。
サプライチェーンの影響か厚生省の方針変更からか保険診療で使える薬がどんどん減っている中で睡眠薬を含めて一部の分野の薬の創薬はより強力になってきています。
なかなか欧米の巨大資本には立ちうちしにくい面もありますが日本には世界一のビッグデータ解析性能コンピュータである富岳などもあるので創薬に有利な面もあるのかもしれません。
量子コンピュータの研究も進んでいますが日本はIBMなどの提携先も含めていい感じにやっているようです。
科学技術の進歩という面では量子コンピュータが実用化されるとAIよりずっとインパクトが大きくなります。
・オレキシン受容体拮抗薬の各薬剤の特徴
ベンゾジアゼピン受容体作動薬が登場したときもその前のバルビツール系睡眠薬が出た時もそれぞれ活発に開発が進められてどんどん薬剤の種類が増えていきました。
現在のオレキシン受容体拮抗薬もややそういう感じになっています。
薬ごとに個性が違うので使い分けると便利です。
最初に登場したベルソムラは入眠導入効果は低くて睡眠持続効果を目的に処方されることが多いです。
オレキシン受容体拮抗薬は睡眠を促すというよりは覚醒を抑えるというイメージの薬です。
ですから日中の過覚醒などが問題として見られるメンタルの問題にはものすごく向いている面があります。
その次に出たデエビゴは現在の保険適用の睡眠薬の中ではベンゾジアゼピン系薬剤など他の睡眠薬と比べても一番入眠導入効果が強いです。
オレキシン受容体拮抗薬で共通してみられるメンタルの調子が悪い時に見られる中途覚醒や夢などはベルソムラと同じくありますがどちらの薬も再入眠ができます。
クービビックはこのジャンルの薬の中では一番自然な眠りに近いという事をうたっている薬剤です。
確かに患者さんの使用感はそういう部分があるようです。
これから登場するボルズィはまだ発売されていませんが、入眠導入作用が強いことと、持ち越しと言われる朝や日中に薬が残る副作用が軽減あるいはそれが無いことが期待されている薬剤です。
もしそうした薬剤として使えるとなるととても便利な薬剤が今までの薬剤に加わることになり患者さんの選択肢が増えます。
・副作用の有効利用も大切
副作用は危険性や有害事象や忍容性と同義に使われて悪い意味と思われていることがありますが実は必ずしも悪い意味ではありません。
副作用というからには主作用があります。
主作用と違う作用もあるよという意味になります。
例えば花粉の時期にはよく抗アレルギー薬を使いますがその中には眠くなるものもあります。
この副作用の「眠い状態にする/なる」はうまく使えば睡眠改善につながります。
また日中の緊張や過覚醒を抑制しますので時として抗アレルギー薬としてではなく不安、緊張、抑うつに効く向精神薬として使われることがあります。
他の抗アレルギー薬も主作用だけでなく副作用の向精神作用を安定剤として使う感じにすると1剤で2度おいしいというか多剤併用を避け薬を整理するのに役立ちます。
もちろん睡眠に何の問題もなく日中の覚醒度も問題がない人に眠い副作用のある抗アレルギー薬を使って日中の副作用が出るようならそれは副作用が有害事象、安全性、忍容性の問題になる場合があるので注意するのが大切です。
本日はこの辺で失礼します。