2026/08/25
気分障害と気分安定剤(気分安定薬、ムードスタビライザー)の使い方
・気分安定剤の誕生
現在では双極症、双極性感情障害、躁うつ病といろいろな名前で呼ばれる状態に対しては気分安定薬を主剤として治療することになっています。
気分安定薬は第二世代抗精神病薬を含む場合もありますし分ける場合もありますがその時の文脈によります。
気分安定剤という言葉は1970年代後半くらいには既にあったかもしれませんが、さらに有名になったのは現在でもいろいろな領域で広く使われるバルプロ酸の徐放剤が1980年頃出た時にメーカーが宣伝したために広まったと考えられます。
もともと躁うつ病にはリチウムが効果があることが19世紀から知られており、治療法・処方のスタンダードから外れており、一時的に廃れていましたが1949年にリバイバルして現在もバルプロ酸などとともに躁うつ病など気分障害の中心的な薬として使われています。
このリチウムを第一世代とすると1970年代ごろから脚光を浴び始めたバルプロ酸とカルバマゼピンなどの抗てんかん薬や疼痛の薬として使われる薬剤が第二世代の気分安定薬として躁うつ病の薬として広く認知され始めた感じになります。
同時に、この時期には気分障害の研究が進み双極スペクトラムとか双極性障害と単極性うつ病の違いなどの研究が進んでいます。
また第二世代の抗精神病薬というセロトニンの2A受容体を遮断するドパミン遮断薬が登場しこれが気分障害の薬として使われたため、ある種の第三世代の気分安定薬とでも言える感じでしょうか。
・うつも躁うつも昔は区別がつかなかった
精神科の診断学というのは昔は大変難しかったですし、今でも変わらずに難しくあり続けています。
今は診断基準がハッキリしているので診断がつけやすいと言われていますが、診断基準を標準化して決めることができるようになっただけで内容についてはいまだに賛否の議論があります。
なぜなら体の病気のように検査で客観的な指標を提示しづらいからです。
医者や治療者の主観がどうしても入ります。
躁うつ病とうつ病は気分障害として今は精神病性障害から分かれていますが昔は統合失調症とともに精神病とされていました。
それも議論があって最近の診断基準作りの時も、それらは分けられないという単一精神病仮説で議論になりました(日本では東京女子医大が昔からその学派です)。
逆に細かく分ける方向性もあって昔のレオンハルトという人はうつ病も躁うつ病も統合失調症を合わせてもっと細かく分けています。
日本の京大学派などはやはり前のアメリカの診断基準策定の時に非定型精神病というのを独立させよと要求しています。
大阪医大と京大で膨大な量の家計調査や遺伝情報があるのですが解析されないままになってしまうかもしれません。
躁うつ病とうつ病と統合失調症は分けにくくて、また分けても恣意的になりやすいのですが統合失調症とうつ病を含めた躁うつ病の2つに分ける時代が長く続いて、最近の診断基準では同じ気分障害の躁うつ病とうつ病でも躁うつ病はむしろうつ病より統合失調症に近いという遺伝データなどが出て議論になって今は統合失調症、躁うつ病、うつ病の3つに分ける診断基準が10年ほど前から使われています。
それまでは移行期間で1980年頃までは躁うつ病とうつ病を分けない流れが続いていました。
こういうことについては今でも議論がありますし研究が進んでいます。
・分かりにくいが…
めちゃめちゃ単純化すれば、「うつ病の薬は抗うつ剤」で「躁うつ病の薬は気分安定薬」で「統合失調症の薬は抗精神病薬」とスッキリ分ければ分かりやすいのですがこれもすんなり区別はできません。
例えば、躁うつ病の患者さんには気分安定薬も抗精神病薬も抗精神病薬も使ったりします。
他も同じで、うつ病の患者さんにも抗うつ薬も気分安定薬も抗精神病薬も使うことがあります。
同じく、統合失調症の患者さんには抗精神病薬だけではなく気分安定薬や抗うつ薬を使うことが普通にあります。
・話を絞って躁うつ病と気分安定薬
そもそも長らく躁うつ病とうつ病は同じ疾患の下位分類のように見なされてきたところがあります。
昔は躁病単独というものもありましたが今はあまり使われません。
第一世代の気分安定薬をリチウムとすると、躁うつ病の患者さんにはリチウムだけ使えば分かりやすいのですが症状や状態に合わせて昔から抗うつ薬も抗精神病薬も使ってきました。
昔は第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)というものがなかったので古い抗精神病薬です。
1970年代ごろから、特に1980年代以降はバルプロ酸やカルバマゼピンが第二世代気分安定薬と言われて積極的に使われるようになりました。
キンドリング仮説とかそういうのがあってキールホルツの分類とか色々提案されて躁うつ病のどの病型にはリチウムがあうとかバルプロ酸があうとかカルバマゼピンが合うとかそういう議論がなされていた時代です。
まとめると「第一世代の躁うつ病の薬はリチウム」で必要に応じて抗うつ薬や古くからある抗精神病薬を使ったり抗てんかん薬でもあるバルプロ酸など(バルプロ酸はてんかん以外にも使われる)が使われてきましたが、1980年頃の「バルプロ酸の徐放剤の開発(徐放剤の開発は薬の歴史では大きな出来事)とともに気分安定薬や後付けですが第二世代気分安定薬(この場合リチウムは第一世代の気分安定薬とみなす)という概念」ができ、「非定型(第二世代)抗精神病薬が開発され使用されていく中で躁うつ病やうつ病などにも使われるようになり、特に躁うつ病に使われるようになる中で現在の我々はこれを第三世代の気分安定剤として頻用」している、という形になります。
・ややこしいが・・・
躁うつ病もうつ病も統合失調症も、まだ病因も病理も生物学的な機序も治療法も分かっていません。
結果として使う薬は病状や病態、症状の何かに対して聞く薬、対症療法的な薬の使い方になります。
気分安定薬は薬によってニュアンスが違います。
例えばリチウムやバルプロ酸なら大雑把に言えば過敏さを減らしてリチウムならおおらかに、バルプロ酸なら不機嫌や苛立ち衝動性、興奮などに効くようなところがあります。
抗うつ薬であれば例えば幸せホルモンともメディアで言われるセロトニンだけ上げるSSRIのような薬ではこだわりや執着減らしたりネガティブな反芻思考をなくすところがあります。
非定型抗精神病薬で一番使われていて精神科以外の全ての薬を合わせた中でも処方数がトップ10に入ることがあったこともあるようなクエチアピンで言えば躁にもうつにも不安にも不眠にも興奮にも幻聴妄想にも何でも聞くような万能さがあります。
病態、病状、症状、副作用に合わせてそれらの薬たちの作用、副作用、その他に精通して薬の魂(特性と効果効能・メリットとデメリット)を生かしていくのが精神科医や心療内科医の1つのお仕事になります。