なぜ精神科で小児を見るのは小学生からが基本なのか(特別な場合を除く)後編

2026/08/20

なぜ精神科で小児を見るのは小学生からが基本なのか(特別な場合を除く)後編

前編に引き続き(同じ内容に触れることがありますが、ご容赦ください)、一般の精神科では小学生から、中学生からといった年齢や学齢区分で診療を区別しているのか、また診療することが少ないのか、について触れていこうと思います。

――未就学児のこころの問題は、どこで診てもらうのか

「子どもの発達や行動が心配で精神科へ相談しようとしたところ、『当院では小学生以上を対象としています』と言われた」

このような経験をした保護者は少なくないと思います。

それでは、6歳未満の子どもには精神医学的な問題がないのでしょうか。あるいは、小学生になるまで診断や治療ができないのでしょうか。

もちろん、そうではありません。

自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、知的発達症、言語発達の遅れ、愛着や親子関係の問題、睡眠や摂食の問題などは、就学前から相談や支援の対象になります。

ただし、未就学児の診療は、成人を中心とする一般精神科外来とはかなり異なる仕組みを必要とします。そのため、地域では小児科、発達外来、小児神経科、児童精神科、療育機関などが役割を分担しているのです。

「6歳」は精神科診療の絶対的な境界ではない

まず大切なのは、6歳という年齢が、精神科を受診できるかどうかを決める法律上の境界ではないことです。

現在の診療報酬でも、児童思春期の精神医療に関する支援は、基本的に「20歳未満」などの枠組みで評価されており、6歳を境に精神科診療を認めたり禁止したりする制度にはなっていません。

したがって、「小学生以上」という受け入れ基準は、多くの場合、それぞれの医療機関の専門性、人員、設備、診療時間、地域の役割分担によって設けられているものです。

児童精神科や小児医療センターでは、乳幼児を診療することもあります。一方、成人患者を中心に診療している精神科クリニックでは、未就学児に必要な検査や支援体制を整えることが難しく、対象を就学後に限定していることがあります。

未就学児は「症状」だけを見ても診断できない

成人の場合、患者本人が、

  • いつから困っているか
  • どのような気分なのか
  • 何が不安なのか
  • 薬を飲んで何が変わったか
  • どのような副作用があるか

を、ある程度言葉で説明できます。

しかし乳幼児の場合、本人の言葉だけでは状態を把握できません。

同じ「落ち着きがない」という行動でも、

  • 年齢相応の活発さ
  • 言葉が理解できないことによる混乱
  • 睡眠不足
  • 聴力や視力の問題
  • 知的発達や言語発達の遅れ
  • 自閉スペクトラム症
  • ADHDの特性
  • 家庭や保育環境とのミスマッチ
  • 不安や親子関係の問題

など、さまざまな背景が考えられます。

乳幼児健診でも、1歳6か月は歩行や言葉など発達の目安が把握しやすくなる時期、3歳は個人差や発達上の課題がさらに明らかになる時期として位置づけられています。健診では、精神発達だけでなく、視覚、聴覚、運動機能、身体疾患、養育状況などを含めて確認します。

つまり未就学児の診療では、子どもだけを診察室で十数分見るのでは不十分です。

家庭での様子、保育園や幼稚園での様子、出生や発達の経過、身体疾患、睡眠、食事、言語、運動、感覚の特徴、親子関係などをまとめて評価する必要があります。

なぜ小児科が最初の窓口になるのか

未就学児の問題では、精神面と身体面を簡単に切り離せません。

言葉が出ない場合には、発達特性だけでなく聴覚障害の確認が必要です。ぼんやりして反応が乏しい場合には、てんかんや睡眠障害などを考えることがあります。落ち着きのなさや不機嫌の背景に、身体的不快感や慢性疾患が隠れている場合もあります。

そのため、乳幼児健診や地域の小児科が最初の相談窓口になり、必要に応じて、

  • 発達小児科
  • 小児神経科
  • 児童精神科
  • 耳鼻咽喉科
  • 眼科
  • 遺伝診療
  • 心理・言語・作業療法
  • 療育機関

などへつないでいきます。

国立精神・神経医療研究センターも、発達障害の専門診療は児童精神科、小児神経科、一部の精神科などで提供されている一方、専門診療の需要が供給を上回っているため、地域の小児科医や精神科医などが初期相談に応じ、必要に応じて専門機関へ連携することが重要だとしています。

未就学児では、薬よりも「生活の中の支援」が中心になる

未就学児の診療では、診断名を確定して薬を処方することが最初の目的とは限りません。

むしろ重要なのは、

  • 子どもが理解しやすい指示の出し方
  • 生活の見通しを作ること
  • 刺激を減らす環境調整
  • 言語やコミュニケーションの支援
  • 遊びや集団生活を通した発達支援
  • 保護者への助言
  • 保育園・幼稚園との連携

です。

ADHDの幼児期・学童期の心理社会的治療では、子どもの行動を理解し、褒め方や指示の出し方などを保護者が学ぶペアレント・トレーニングが、重要な方法の一つとされています。

また、児童発達支援、居宅訪問型児童発達支援、保育所等訪問支援など、未就学児を生活の場で支える福祉制度も整備されています。

未就学児の場合、医療機関内の診察だけで治療が完結することは少なく、家庭、保育、医療、福祉が一緒に支援する必要があります。

薬の承認年齢が「6歳以上」に集中していることも一因

一般精神科で小学生以上が一つの区切りになりやすい理由には、薬物療法の承認年齢も関係しています。
こちらは前編においても触れた内容になります。

代表的なADHD治療薬では、

  • メチルフェニデート徐放製剤
  • アトモキセチン
  • グアンファシン徐放製剤

について、6歳未満では有効性・安全性が確立していない、あるいは6歳未満を対象とした臨床試験が実施されていないと添付文書に記載されています。

これは「6歳未満には絶対に薬を使えない」という意味ではありませんが、少なくとも通常の保険診療で、十分な根拠に基づいて使用できる選択肢が限られていることを意味します。

一方、例外的に、リスペリドンは小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対して、原則5歳以上18歳未満で使用することが認められています

ただし、これは自閉スペクトラム症そのものを治す薬ではありません。著しい興奮、攻撃性、自傷などの易刺激性を対象としたものであり、定期的に有効性と安全性を評価し、漫然と長期投与しないことが求められています。

薬剤の承認年齢が6歳前後に設定されている背景には、治験で用いられる評価尺度、本人から副作用を聞き取る能力、学校や家庭での行動評価、体重や成長への影響などを一定程度評価しやすくなることも関係しています。

しかし、薬の年齢制限だけが、未就学児を一般精神科で診ない理由ではありません。

小学校入学によって問題が見えやすくなる

小学校へ入ると、子どもに求められることが大きく変化します。

  • 決められた時間に席に座る
  • 一斉指示を聞く
  • 順番を待つ
  • 読み書きや計算を学ぶ
  • 忘れ物を管理する
  • 同年齢集団の中で行動する

といった課題が増えます。

幼稚園や保育園では個性や発達の幅として受け止められていた特徴が、学習や集団生活の困難として明確になることがあります。

また、学校という比較的一定した環境ができることで、

  • 家庭でも学校でも同じ困難があるのか
  • 特定の場所だけで起きるのか
  • 学習面の問題なのか
  • 対人関係の問題なのか
  • 注意や衝動性の問題なのか

を比較しやすくなります。

本人も年齢とともに、自分の困りごとや薬の効果、副作用を少しずつ言葉で説明できるようになります。

このため、就学時期は精神科外来でも評価や治療を始めやすい一つの節目になります。

一般精神科が未就学児を診ないのは「軽視」ではない

「未就学児は診ません」と聞くと、保護者は「まだ小さいから問題にしてもらえない」と感じるかもしれません。

しかし本来は逆です。

未就学児だからこそ、

  • 身体発達を含めた評価
  • 親子を一緒に見る診療
  • 保育場面の観察
  • 発達検査
  • 言語・運動・感覚面の評価
  • 家族支援
  • 療育との連携

が必要になります。

一般精神科が安易に引き受けず、小児科や専門機関につなぐことには、診療の質と安全を守る意味があります。

未就学児の診療は、単に「成人精神科を小さな子どもに適用する」ものではありません。

子どもの発達、身体、家族、保育、地域生活をまとめて扱う、独自の専門領域なのです。

どこへ相談すればよいのか

未就学児について心配がある場合、まず相談先になりやすいのは、

  • かかりつけ小児科
  • 自治体の乳幼児健診・保健センター
  • 発達相談窓口
  • 発達外来・小児神経科
  • 児童発達支援センター
  • 専門の児童精神科

などです。

診断がまだついていなくても、支援を始められる場合があります。

むしろ乳幼児期には、診断名を急いで確定することより、

子どもが何に困っているのか
家族が何に困っているのか
どのような環境なら過ごしやすいのか

を明らかにし、生活の中で支援を始めることが重要です。

おわりに

一般精神科で小学生以上を対象とすることが多いのは、6歳未満に精神医学的な問題が存在しないからではありません

未就学児では、精神症状、発達、身体疾患、環境、親子関係を一体として評価する必要があり、診療の中心も薬物療法より、療育、環境調整、保護者支援、多職種連携に置かれます。

そして就学後になると、本人の言葉、学校での情報、学習や集団適応の状態を評価しやすくなり、使用可能な薬物療法の選択肢も増えていきます。

したがって、「小学生から」という区切りは、子どものこころが突然6歳で精神科の対象になるという意味ではありません。

乳幼児期には乳幼児期に適した支援の仕組みがあり、就学後には就学後に適した診療の仕組みがある

という、地域医療における役割分担の結果なのです。

入口をどこにするか、ということは大変重要な問題であります。
これらの診療や受け入れといった医療上の課題は今に始まっていることではなく、近年より整備されつつありますが、未だに、本人・家族・遺伝・環境といった小児にとって切り分け難い一個としてしか捉えられなような事柄をどこでそれとして扱っていくか。
これについては、世界的にも確たるべしという答えがあるわけでもなく、医師個人としても、答えを見出しづらいです。

ですので、「つらいな」「問題だな」と、まだ判断や設定をしやすい大人(養育者や、その関係者)が、まずその本人を見立てることから始まるの(ここが第一歩目)だと思います(問題意識をもつ、ということです)。