大人の発達障害について
発達障害とは、脳機能の発達が関係する生まれつきの障害で、生まれ持った発達上の特性によって、日常生活に困難を生じている状態を言います。
発達障害の代表的なものとしては、学習障害、広汎性発達障害、ADHD(注意欠如・多動性障害)などが挙げられます。
発達障害がある人は、一般に対人関係を形成するのが苦手です。その言動から「自分勝手」「変わった人」などと誤解されることがよくあります。
一方で、優れた能力をもっていることも多く、そのアンバランスによって周囲からは余計に理解されにくいのです。
こうした特性をもつ人たちは、障害とは気づかれにくく、そのために必要なサポートを受けられずに困っていることが少なくありません。
また、精神疾患と間違えられたり、「反省しない」、「努力が足りない」などの非難を受けたりして、ひどく思い悩むこともあります。
対人関係や社会性における問題のために、自己肯定感を持つことが出来ずに、うつ病や不安障害、対人恐怖症などを発症することもあります(二次障害)。
発達障害の大人に見られがちな特性
- 忘れ物やミスがひどく多い
- 上司や同僚らとのコミュニケーションがとれない
- 提出物の期限が守れない
- 大事なものを失くしてしまう
- 仕事や家事の段取りが悪い
- 自分を抑えられない
- 空気が読めない
- 音や臭いなどの感覚に関して、敏感だったり鈍感だったりする
- 自分の習慣や手順へのこだわりがひどく強い など
発達障害の治療
大人の発達障害の場合、患者様の特性や状態に応じた治療をすることになります。対人関係の作り方の見直しやコミュニケーションスキルの指導、社会ルールの学習、日記指導などの方法がとられます。 また、うつ病などの二次障害がある場合は、薬物療法が用いられることもあります。
大人の発達障害(ADHD)チェックリスト
大人の発達障害(ADHD)チェックリスト(ASRS-v1.1)
以下のチェックリストは、医師に相談する際に、ご自身の症状を正確に伝えるためのチェックシートです。大人の発達障害(ADHD)と診断をするものではございません。
大人の発達障害(ADHD)と症状について
大人の発達障害(ADHD)といっても、大人になってから初めて出現するものではありません。不注意、多動性、衝動性といった3つの症状に、子どもの頃から悩まされていたり、自分なりの工夫や対策を考えて努力されている方が多くいらっしゃいますが、それでも状況が改善されないまま大人になり、うまく生活することができず困っているのです。
多動性
- 人前で貧乏ゆすりをする
- 目的の無い動き
- 落ち着きがない など
衝動性
- 自分本位な行動
- 共感性が乏しい行動
- 思ったことをすぐ口に出してしまう
- お金がない時でも衝動的に買い物をしてしまう など
不注意
- 仕事などでケアレスミスをよくする
- 忘れ物・紛失物が多い
- 時間管理が苦手
- 仕事・作業を順序だてて行うことが苦手 など
但し、 上記の症状を持つ全ての方が、大人の発達障害(ADHD)というわけではありません。他にもADHDに似た症状を示す障害はあり、最終的な診断は、医師に相談しましょう。
大人の発達障害(ADHD)に、他の障害・病気が併発している場合は、ADHDの診断が難しい場合があります。
治療の効果などに影響する場合があるため、合併症の有無を適切に診断する必要があります。
ADHDの治療は、心理社会的治療(環境の調整など)から開始し、その方の状況から必要であれば投薬などの治療を組み合わせます。
大人の発達障害(ADHD)と診断された方への支援について
「ADHD」と診断を受けることが、新たな一歩になります
周囲の方からの理解などの環境が整っている場合、ADHDの症状がその人の個性として捉えられ、問題なく社会生活を送れる方もいらっしゃいます。
その一方、大人になるまで治療することなく、周囲からの理解がない場合は、ご自身が注意払ったとしてもミスを繰り返すということがしばしばあります。その場合、周囲からの評価は下がり、ご自身でも「自分は能力がない人間だ」と思い込むことになります。
大人の発達障害(ADHD)を持つ方は、社会・家庭生活で、多数の困難を持ち、ご自身のイメージと離れた日々を過ごすことで、気持ちが落ち込み、自分自身も能力以下の自己評価をしてしまうことが見られます。
大人の発達障害(ADHD)の診断をされることで、周囲の方からも社会的なサポートを受けるための第一歩で、自分自身が特性を理解し、生活を見直すことができます。悪循環から抜け出すキッカケになります。
大人の発達障害(ADHD)の診断を受けるために
心療内科・精神科にご受診しください。
また、初診時にご用意いただくものとして、日頃の行動や様子を具体的に記録したメモや書面をご持参ください。ご自身の子どもの頃の印象を周囲の方に聞いておくこともお勧めいたします。
小学校の通知表や幼少期の様子がわかる資料を用意されるなどの他、大人のADHD症状チェックリストを行っていただくなどして、なるべく詳細を医師にお伝えいただくことで、より正確な診断ができます。
大人の発達障害(ADHD)治療について
大人になって初めてADHDと診断され治療を開始する場合、環境調整などの心理社会的治療と、薬物療法の双方向から行っていきます。
治療の目標
ご自身が職場や学校、家庭での悪循環が好転し、自信を取り戻して自分の特性と折り合えるようになることを目標とした治療を行います。それにより充実した社会生活が送れるようになっていただくことを考慮した治療を行っていきます。
また、ADHDの治療は、ADHDの特性である不注意、多動性、衝動性をなくすことだけが治療の目標ではありません。
- ご自身の生活での困難を理解し、対処方法を身につけていくこと
- 周囲により理解者、サポーターを得ること
環境調整などの心理社会的治療
暮らし方の見直し
- 指示は短く、簡潔に出してもらうことで、記憶の保持につなげる
- 言いたいことは、時間をおいて熟考してから、人に伝える
- 計算や書類作成など苦手な事は、誰かに相談するようにする
- 大失敗したことは、それ以降、「してはいけないこと」ルールに加える
- 困ったときには、自分を過信せず家族や友人を頼る
生活環境の見直し
- 壁のポスター、テレビの音量など、集中の妨げになる事柄をとりのぞく
- イライラした時には、一人になれる場所を確保しておく
- 道具(メモ帳や携帯電話のアラームなどの)をうまく活用する
- 予定は共有ボードに書き出して、家族に一声かけてもらえるように依頼する
- 出かける際に必要なものは、置く場所を決めておいて、必ずそこで管理する
人間関係の見直し
- 特性を説明し、面倒でも何度も注意してもらえるようにお願いする
- 作業の締切期日が近くなったら一声かけてもらえるようにお願いする
- 自分を過信して安請け合いせず、必ず相談してから返事をする
ADHD薬物治療
ADHDは神経伝達物質であるノルアドレナリンやドパミンが不足して、情報伝達が十分に行えないために症状があらわれるといわれています。
現在、大人のADHDの治療薬として承認されている薬剤は、注意欠陥/多動性障害治療剤(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)と中枢神経刺激剤の2剤です。
これらの薬剤は、ノルアドレナリンやドパミンの不足を改善し、これにより情報伝達がスムーズに行われるようになり、ADHD症状を改善すると考えられています。
服用期間について
お薬は、必ずしも一生、飲み続けるものでもありません。(服用期間は、個人差あり) 生活上の悪循環が好転し、十分な期間維持できた段階で、その後の治療を再検討します。 治療経過には個人差があるため、服用期間も人によって異なります。
※服用期間・中断のタイミングは、必ず医師と相談しましょう。