症状の名称について
こちらのサイトでは、皆さまに読んでいただきやすいように「強迫性障害」というタイトルにいたしましたが、現在は、「強迫症および関連症群」というカテゴリーが作られ、強迫性障害はここに分類されました。
強迫性障害で悩まれている方、その周囲の方へ
治療を始める前に
強迫性障害でご受診される方は、ほとんどの方が、ご自身だけで来院される方が少ないのも特徴です。
初診について
- 強迫行為を見かねた周囲の方がご一緒にご受診される
- 周囲の方だけでご相談にいらっしゃる
ご受診の際には、まず問診をし、強迫性障害に該当するかを診断します。 国際的に確立されている診断基準で「強迫観念」や「強迫行為」があるか、それが精神的苦痛や日常生活を困難にさせていないかなどを診断します。
いきなり治療を始めることはしません。
強迫性障害の症状をお持ちの方ご自身がされている行為がおかしいことは理解していても、外部から自分を変えられることに強い不安を感じます。
そんな心理状態で無理矢理治療を始めても医療者に不信感を持ち、治療を進めることは困難になります。
そのため、はじめは、強迫性障害がどういう病気なのかを理解してもらうことから始めます。
強迫性障害について
強迫性障害は、同じ思考や行動を繰り返してしまい、自分で「ばかばかしい」「不合理だ」とわかっていながらどうしてもやめることができず、日常生活に支障をきたす障害です。考えの強迫症状は強迫観念、行動の強迫症状は強迫行為と呼ばれます。
強迫観念とは自分でもばかばかしいと分かっていながらくり返し、浮かんでくる考えであり、強迫行為は、ばかばかしいと分かっているのに、何度もくり返してしまう行為ですが、両者には密接な関係があり相互に関係します。また強迫だけではなく、他のいろいろな精神的な問題が重複して起こることも多く、様々な問題を抱えて苦しんでいる方が多く見られます。
強迫性障害の治療には薬物療法や暴露反応妨害法などの治療が行われますが、現在は研究が進み、強迫性障害にも生物学的に様々なタイプがあることが分かり、治療反応も様々です。
強迫症状はストレスで悪化する傾向があるため、ストレスのコントロールはとても大切です。
日常生活や社会生活では多くのストレスがあり、また環境の変化やライフイベントなど、我々の生活には多くの変化があるため、強迫症状の症状には波があり、良くなったり悪くなったりをくり返します。治療が進んでいる場合でも症状が悪化するときもあるため、悪くなったからといって慌てず、じっくり治療していくことが大切です。
強迫性障害の症状
「強迫観念」と「強迫行為」
強迫性障害には、「強迫観念」「強迫行為」または、その両方の症状が現れる場合があります。
強迫観念
苦痛や不安を伴って繰り返し浮かんでくる思考やイメージ、何かをせずにはいられなくなる衝動のことです。
強迫行為
強迫観念を打ち消すために繰り返し行われる行為や心の中の行為のことです。 その行動や心の中の行為は、不安または苦痛を避けるためや緩和することであり、他に何か恐ろしい出来事や状況を回避することを目的としています。しかし、その行動や心の中の行為によって、中和されたり、予防することとは、現実的な意味でつながりをもちません。または、明らかに過剰な行為をいいます。
- 強迫観念や強迫行為は、時間を浪費させるだけでなく、臨床的にも苦痛であったり、社会的、職業的、他の重要なことに、障害を起こしている場合をいいます。
- 1の障害は、物質的障害(例:乱用薬物、医薬品)や他の医学的疾患などによる生理学的作用によるものではない場合をいいます。
- その障害は他の精神疾患とは異なります。 強迫観念と強迫行為は、以下の様な症状が、しばしば見受けられ、症状や行為が続き、ご自身や周囲の方の生活に支障がきたす場合は、積極的にご相談ください。
その他の強迫観念と強迫行為の症状【例】
不潔恐怖と洗浄
何かを汚いと思い触れなくなったり、必要以上に手洗いや入浴を繰り返す。加害恐怖
誰かを傷つけたり殺してしまったのではないかと不安になり、周囲の人に確認したり、新聞やテレビの報道を確認する。実際には誰かを傷つけてしまいそうな場面に遭遇していなくても、頭の中にイメージが浮かんできて不安になる。確認行為
電気やガスの消し忘れ、鍵の閉め忘れが不安になり、何度も確認する。儀式行為
決まった順番で物事を行わないと恐ろしいことが起きる、といった不安を感じ、どんなときでも同じ方法でやろうとする。物の配置・対称性へのこだわり
左右対称など物の配置に強いこだわりがあり、配置がずれていると不安になる。※強迫観念と強迫行為には必ずしもつながりがあるわけではなく、「家族に暴力をふるってしまうかもしれない」という強迫観念(加害恐怖)を避けるために、テーブルの上の物を左右対称に整理するという強迫行為(物の配置・対称性へのこだわり)といった代償行為を行う場合もあります。
強迫性障害の原因
『自分で何でもコントロールしたいと思う完璧主義な人』『真面目で責任感の強い人』がなりやすい病気です。
その性分がいい方向に作用している時は問題ないのですが、入学や就職、転勤、転職、結婚などで、生活に変化があった時に思うようにいかなくなり、徐々に強迫行為が悪化される方が多いようです。
強迫性障害の症状を持つ方は、ご自身の症状に気付いていない方も含め、人口の約2%と言われており、その内訳は、軽症の方が25%程度、治療をすれば症状が軽くなる方が50%程度、入院が必要な方が25%程度となっています。軽症だった方も、強迫観念と強迫行為の悪循環を幾度も繰り返すうちに重症化するといった場合もあります。
また、強迫性障害の方に男女の差は無く、多くの人が10~20歳代で発症されています。強迫行為の症状があった方がご相談にいらっしゃるまで5~10年経過してから来院されるという方が多くいらっしゃいますが、強迫性障害の症状かもしれないと思われたら、早期にご相談にいらしてください。
強迫性障害の診断
ICD-10
確定診断のためには、強迫症状、強迫行為、またはその両方の症状・行為が、少なくとも2週間連続し、ほぼ毎日、生活する上で、苦痛、または、生活に支障をきたす状況をいいます。 以下のような特徴が現れています。
- 強迫症状は、患者様ご自身の思考や強迫行為として認識されている状態をいいます
- 強迫観念・行為に、ご自身が違和感のない強迫症状があったとしても、少しでも違和感のある思考、行為がある状態をいいます
- 強迫性障害の症状は、それ自体が楽しいものでない状態をいいます
- 思考、状態、または行為は、不快で反復性がある状態をいいます
DSM-5(強迫症および関連症群)
強迫性障害の中には、チック症状(無意識に、あるいは気持ちの悪さから、まばたきや首の運動、咳払いなどを繰り返すなど)の経験を持つ場合の「チック関連」というサブタイプがあります。
認知的タイプ
「強迫観念」という頭から離れない考えや不安に掻き立てられ、止めたいと思いながらも止められずに繰り返し行為を行ってしまう典型的なタイプです。汚染恐怖から手洗いやシャワーが止められない、火事の心配などから確認を何度もしてしまう、などが該当します。
- 身体醜形障害:自分は醜いと誤って認識により起こる行動で、鏡を何度も見たり、化粧品を買い集めたり、皮膚科や美容整形の受診を繰り返す
- ためこみ障害:ものに執着する、または、捨てて後悔するのではという不安から、捨てられず溜めこんでしまい、生活空間を占拠するような状況が生じます
運動性タイプ
観念や不安の増大に関わる認知的プロセスは明らかではなく、「まさにぴったり感(just right feeling)」を求めて繰り返し行為を行うタイプです。これは、生活のいかなる状況でも起こりうるもので、厳密に適用しなければならないルールに従って、駆り立てられる様に行なわれます。
たとえば、カチャという鍵が閉まる感覚が納得できるまで、この行為を繰り返すなどが挙げられます。これは、鍵が閉まっているかという不安に掻き立てられた行為ではなく、「まさにぴったり感」を求める中で繰り返してしまい、いつまでも納得できず動けなくなってしまいます。
- 抜毛障害 (抜毛癖):毛髪や体毛を抜かずにはいられなくなり、抜いてしまうという行動
- 皮膚むしり障害:ざらざらとした皮膚の感覚やニキビが気持ち悪いという感覚から、むしらずにはいられなくなる
強迫性障害の治療について
強迫性障害の症状をお持ちの方は、自分で何でもコントロールしたいと思うため、周囲の人を巻き込んで支配する傾向にあります。
例えば、ご自身を汚いと思い込まれていた方は、強迫性障害の症状を発症時は、手を何度も洗いっていましたが、徐々に悪化され、ついには家族も巻き込み「自分が触ったところは汚い」とご自身はもちろん、ご家族の方も一緒に5時間近くも掃除を強制されるところまで重症化しました。
これには、ご家族の方も、とうとう限界となり、ご受診されるといった方もいらっしゃいました。強迫性障害行為の行き過ぎが目立ち始める前に、積極的に、ご受診してください。また、周囲の方の生活に支障がきたすと気づかれたら、なるべく早めにご来院ください。